常設展示室 1F 1999 MOMASコレクション 第2期

1999.12.14 [火] - 2000.4.2 [日]

日本の現代美術-1960年代以後

明治以降、近代日本の美術家は西洋の絵画や彫刻の様式を受け入れつつ、伝統と近代化という揺れ動く振幅の中で、表現を模索してきました。日本の近代美術のこの複雑な背景は、今世紀の我が国の美術史を考える上では、無視できない問題であることは確かです。しかしその作品の多くが、西洋の表現の亜流であったり、伝統への復古であったり、あるいは伝統と西洋の表現の折衷であったりと、真の意味での独創性に欠けていたことは否定できません。国際的視野にたった美術史の中で、日本の戦前の近代美術の作品があまり議論の対象にならない理由の一つは、その点にあると言えるかもしれません。
その一方で、戦後の日本の美術は、世界の中で頻繁にとり上げられ、特に近年、多くの注目を集めています。例えば1950年代における関西の具体美術協会に参加した美術家は、身体的行為や独自のアイディアを駆使したユニークな作品を数多く残し、海外の批評家から評価を受けてきました。このような先駆例に続き、60年代以降、国際舞台で注目される日本の美術家が次々と現れます。60年代に主に海外で活動した草間彌生は網目や点を反復する様式を、絵画から身の周りにある物体へと拡張させ、表現媒体を自在に横断しながら制作を展開します。また、60年代末から70年代初めにかけて登場した吉田克朗、小清水漸、李禹煥、榎倉康二らは、まず現実の物体や物質にじかに向き合うことから制作を初め、そこから絵画的、あるいは彫刻的表現を再構築していきました。さらに、彫刻の問題を独自の方法論で問い直す戸谷成雄や、物質の力を引き出しながら根源的で隠喩に富んだ表現を探求する遠藤利克らが、80年代以降、国際的に高い評価を受けています。
このような美術家の制作に概ね共通して指摘できるのは、西洋的概念の絵画や彫刻という表現形式を盲目的に受け入れてはいない点です。絵画や彫刻という形式から離れた地点で表現の本質を問いかけたり、あるいは西洋とは異なる視点から絵画、彫刻を再生しているところに、共通の特徴があります。それ故、彼らの作品は、単なる欧米の追随ではない独創的な作法があり、国際的視野からみても意義のある表現になっていると言えます。
今回の常設展示では、1960年代以降の日本の美術に焦点をあて、世界的評価を得ている美術家の作品を紹介します。国際的視野の中での独自の表現とは何かという問いを念頭に置きつつ、個々の美術家の思考と実践に触れてみてはいかがでしょうか。
また、開館以来、当館では19世紀後半から20世紀前半にかけての西洋の近代美術に関わる作品を収集方針の一つとして収蔵してきました。今回の常設展示では西洋近代絵画の小コーナーを併設し、あわせて当館の代表的美術家の作品も紹介します。

会期

1999.12.14 [火] - 2000.4.2 [日]

観覧料

無料

吉田克朗《650ワットと60ワット》1970年

李 禹煥《線より》1980年

MOMASコレクションロゴ

埼玉県立近代美術館では、2008年度より「常設展」という呼称を「MOMASコレクション」に改めました。当館の常設展では2002年度以降、外部からの借用作品や現存作家のご協力によって、所蔵作品を核としつつも従来の常設展のイメージに捉われない、企画性の高いプログラムを実施してきました。名称変更はこうした意欲的な姿勢を示そうとするものであり、これまで以上に充実した展示の実現を目指しています。

※MOMAS(モマス)は埼玉県立近代美術館(The Museum of Modern Art, Saitama)の略称です。